【第一回】統合失調症の利用者さんの合同会議

もの作り
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以前から話があった統合失調症の利用者さんの合同会議をしました。この利用者さんがリサーシャに来て数年経ちますが、初の合同会議です。電話でのやり取りはありましたが、これまでは実際にデータを見せて説明することはありませんでした。そこで、この合同会議でデータを基にこれまでの変化を説明しました。

photo by fujiwaraさん

 

 

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はじめに

先日、いくつかの施設の関係者の方とリサーシャのある利用者さんの今後について合同で話し合いをしました。この利用者さんは、統合失調症を基礎疾患として双極性障害も併発しています。リサーシャでは、もの作りの動作を複数のセンサーを用いて計測し、その数値の変化を記録しています。そこで、この合同の話し合いで、革細工の刻印を打つ動作の変化を紹介しました。

 

刻印を打つ動作の時間変化

まず、刻印を打つ動作時間(数十回打った平均時間)の変化を見ると、再発前に1秒近くまで短縮しました。この利用者さんの場合、この時間の短縮が再発の兆候の一つでした。実際には、この時間の変化と日常生活の行動変化とを照らし合わせながら再発を予測しました。再発・退院後は、刻印を打つ動作時間が伸びていきました。この変化は、恐らく、再発による機能低下と予測され、もう戻ることはないと思っていました。しかし、今年に入ってから、時間が縮みはじめました。日常生活の行動には特に問題がなかったので、再発の可能性はないと考えました。そこで、この時間の短縮について本人に尋ねると、「他の人はもっと速いと聞いて、速く打つことを意識しました」とのことでした。そこで、他の利用者さんは指定回数の50回で刻印を打っているので、50回打つことも提案しました。

 

 

刻印を打つ動作の回数変化

過去に何度も50回打つことを提案しましたが、疲れることを理由に断られていました。ところが、この日は、断られることなく、「やってみます」という返事が返ってきました。その日以来、刻印をきちんと50回打つようになりました。このように刻印を打つ時間だけでなく、刻印を打つ回数も他の利用者さんと同じように変化しました。

 

 

データに現れない行動の変化

これまでにこの利用者さんは、他の人のデータを気にすることはありませんでした。しかし、今回のように他の人のデータに関心を持ち、他の人に合わせようとするのは一つの意欲の現れかもしれません。では、このような変化が刻印を打つ動作にのみ現れたかというとそうではありません。織物にも意欲の現れと見られる変化が見られました。

織物を始めた当初は、再発したせいもあったのか、それとも単純で地味な作業のためか、作品に対してあまり関心を持っていないようでした。しかし、ある時期から他の利用者さんの作品に興味を持ち始めました。また、他の利用者さんの作品を手元に置いて見本にしたり、下書きを書いたり、作品を綺麗に作ろうとする工夫が見られるようになりました。これも作品を綺麗に作りたいという意欲の現れだと思います。

今回の合同の話し合いには、某精神病院と某サポートセンターの精神保健福祉士の方、某介護サービスの介護福祉士の方が参加しました。精神保健福祉士の方とは再発前から連絡を取り合っており、利用者さんの日常生活の変化を話し合っていました。再発後は食生活の偏りや部屋の片づけなどに問題があったことから、介護福祉士の方の食事指導も加わりました。改善とも見られるデータの変化は、この利用者さんのために複数の方が尽力した結果の現れとも言えるのではないかと思います

 

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織物の織り数の変化

短時間の計測を行う刻印を打つ動作では改善の兆候が見られました。しかし、1時間の計測を行う織物では、織る動作回数が少なく、改善の兆候は見られませんでしたこの利用者さん(Sub)は、これまでの作品の織り数の平均値を他の利用者さんの平均値(Ave)と比較しても半分ぐらいしか織れません。作品の難易度が上がるにつれ、織り数が10回前後まで下がっています。このことから、就労支援に通うことは現時点でもまだ難しいという判断になりました。しかし、これまでのこの利用者さんは、作業手順が分からなくなって考えがまとまらなくなると、タバコを吸いに途中で作業をやめてしまい、計測終了までそのまま戻って来ませんでした。また、これまでに教わった作業手順を確認すると、「分かりません、覚えていません」という返事が返ってきていました。ところが、ここ最近はタバコを止め、途中で退席することもなく、作業内容を理解しようとする様子が見られます。このような行動の変化は、データには反映されないので、実際の作業の様子を観察し、利用者さんとの会話の中で確認する必要があります。織物のデータの変化では改善の兆候は見られませんが、実際の作業の様子では改善が見られています

 

 

最後に

この利用者さんとのリサーシャでの会話から、会話する人が限定され、且つ他の人と会話する機会がほとんどないことが窺えました。そこで、今回参加した関係者以外と会話する機会を作れないか提案しました。しかし、急激な環境変化は、折角、安定してきた病状を悪化させる可能性があります。このため、今後も様子を見ながら、この利用者さんの状況に合わせて、どういう施設が妥当かを検討していくことになりました

リサーシャでは、今後も本人が希望する限り、もの作りの動作を計測し、そのデータの変化に伴う行動の変化も記録していきます。そして、今後の合同会議でもその記録を提供し、この利用者さんの変化に合わせて、色々な施設と協力しながら本人が望むQOL(Quality of life)の向上に繋げていきたいと考えています

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