【第二回】統合失調症の利用者さんの合同会議

リサーシャ
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約1年振りに【第二回】統合失調症の利用者さんの合同会議をT&Nリサーシャで行いました。今回で2回目の合同会議になります。前回から今回までの約1年間に得られたデータで見られた変化を紹介しました。

 

 

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はじめに

先日、いくつかの施設の関係者の方とリサーシャのある利用者さんの今後について一年振りに合同会議を行いました。前回行った合同会議については以下を参照してください。

【第一回】統合失調症の利用者さんの合同会議
以前から話があった統合失調症の利用者さんの合同会議をしました。この利用者さんがリサーシャに来て数年経ちますが、初の合同会議です。電話でのやり取りはありましたが、これまでは実際にデータを見せて説明することはありませんでした。そこで、この合同会...

この利用者さんは、統合失調症を基礎疾患とし、その後、双極性障害に診断が変わりました。リサーシャでは、もの作りの動作を複数のセンサーを用いて計測しています。そして、その数値の変化を毎回、利用者さんにフィードバックしています。今回の合同会議では、前回から約1年間のデータの変化を紹介しました。

前回は、織物のデータから就労支援施設に通うのは難しいという判断でした。しかし、この利用者さんの日常生活の様子を伺うと、家にいることがほとんどでした。そのため、他者との会話と言えば、当施設に来たときが挙げられます。それ以外は、訪問に来る精神保健福祉士と介護福祉士の数人と限られていました。他者と接触する機会が少ないせいで我慢することがなく、当施設では大きな声での独り言が多かったです。

また、会話の減少は、将来的に嚥下機能の低下を招く可能性が年齢的にあるので、引きこもり状態による色々なデメリットを考慮して精神保健福祉士の方々に就労支援施設の利用を相談していました。その結果、今年から就労支援施設を利用するようになりました。

この利用者さんにはある趣味がありました。しかし、しばらくの間はその趣味が滞っていました。最近になってようやっとその趣味を再開し始めました。また、ある時期から上半身が左に傾き、姿勢の異常が見られるようになりました。何故か、この趣味を本格的に再開し始めた後、この姿勢の異常が改善されていきました。この変化はデータにも現れました。

そこで、今回の合同会議では、前回のデータを踏まえて、以下について説明しました。

  • 就労支援に通うようになった影響
  • 短期的な姿勢の異常
  • 趣味による姿勢の改善

そして、将来的に、どのようなことがこの利用者さんが希望するQOLの維持、あるいは向上に繋がるかを提案しました。

 

データの変化について

前回から今回の合同会議までの間で刻印打ちに見られた変化を4つの図に示しました。そして、各図にはこの間にあった重要な出来事(赤文字)と趣味に関する出来事(緑文字)を併記しています。

  • 前回合同会議 … 前回合同会議では計測を会議の開始前に行いました。
  • 趣味の準備 … この利用者さんの趣味には環境を整える必要がありました。そこで、この試行回数から準備を始めました。
  • 就労支援施設の利用開始 … この回は当施設利用後に就労支援施設に向かいました。
  • 上半身の傾斜 … 凡そですが、この辺りから上半身が左側に傾いていました。
  • 商品購入の手伝い① … この趣味に必要な商品購入の1回目です。
  • 上半身傾斜の改善 … 本人が意識しない間に上半身の傾きが改善されました。
  • 商品購入の手伝い➁ … この趣味に必要な商品購入の2回目です。

商品の購入は、当施設のスタッフが2回手伝っています。そして、2回とも刻印打ちを試行する6日前に手伝っています。上記の点を踏まえて、各図の変化について説明します。

当施設では、革細工の一部の動作を計測しています。そして、毎回、その動作の変化を利用者さんにフィードバックしています。革細工の一部の動作では、木槌で刻印を2回叩いてずらすという動作を1セットととしています。そして、5cm幅の線の上で50セット繰り返してもらいます。最初の頃は刻印を細かくずらせず、50セット繰り返せない場合があります。​

 

図1 刻印打ちのセット数の変化 図2 刻印打ちの1セットの平均時間の変化

刻印打ちのセット数

図1の刻印打ちのセット数では、ほぼ50セットできていました。そして、各出来事が回数を数えることに影響していないようでした。就労支援施設の利用を始めてから試行回数430回目でセット数が52回になりました。この回は眼鏡が曇って見えにくかったそうです。

刻印打ちの1セットの平均時間

図2の刻印打ちの1セットの平均時間の変化では、大体1.5秒前後で変化しました。そして、稀に2秒近くまで伸びたり、1秒近くまで縮んだりしました。

この利用者さんは薬の影響で普段から手の震えがあります。そして、身体的疲労によって震えの大きさが影響されます。このため、刻印を細かく動かすような動作の場合、時間の増減が身体的疲労に影響されやすい傾向があります。

刻印を速く打つことを意識できるときは1秒近くまで速く打てるようになりました。しかし、日頃、腰痛や疲労感を訴えることが多々ありました。この場合、速く打つことを意識してもできないときもあれば、速く打つことを忘れて意識できないときもありました。

試行回数430回目と447回目で時間が2秒を超えました。しかし、これらの回は眼鏡が曇って見えにくかったそうです。眼鏡の曇りが原因かと思われました。別の試行回数を調べてみると眼鏡が曇っていても影響されない日がありました。そこで、さらにその他の違いを見てみることにしました。すると、眼鏡が曇って時間が伸びた回は、いずれも日課の散歩をしていませんでした。ひょっとしたら、眼鏡の曇りと散歩が出来ないほどの疲労が重なると時間が伸びるのかもしれません

 

図3 木槌の振り幅の変化 図4 ゴム板への衝撃の変化

木槌の振り幅

図3の木槌の振り幅の変化では、他の利用者さんは大体4~6cmの範囲で変化しています。この利用者さんも同様に大体4cm前後で変化しています。趣味の準備を始めた次の回では、木槌の振り幅が6cm近くまで上昇しています。この利用者さんは、普段、木槌の縁に近い部分で刻印を打っていました。しかし、この回では、木槌の中心で刻印を打つことを意識したそうです。

ゴム板への衝撃

図4のゴム板への衝撃の変化では、0.7Gを基準にしています。ところが、この利用者さんは0.6G前後で変化しています。日頃から疲労感や腰痛を訴え、ひどい時は0.6Gを下回ることがありました。他の利用者さんも衝撃が0.6Gを下回る場合、身体的に疲労を訴えることが多いです。合同会議を行った403回では、衝撃が0.4Gを下回り、会議に参加する人たちに見学されながらの計測で緊張したそうです。

その後の408回では、衝撃が0.5G近くまで下がり、腰痛がひどかったそうです。また、この利用者さんは普段から缶チューハイを飲んでいました。この回の数日前からアルコール度数が高い日本酒を飲むようになりました。

412回、414回、416回、436回では衝撃が0.6Gを下回っています。まず、412回は、2日前に重い物を持って手が疲れていたそうです。次に、414回は、腰痛と気候による体調不良を訴えていました。しかし、416回は、腰痛がありませんでした。ただ、前日に眠れず、睡眠導入剤を飲んだそうです。436回も腰痛がひどかったようですが、睡眠導入剤は飲んでいませんでした。

上半身が左に傾き始めたであろう439回以降、腰痛や睡眠導入剤の服用がありませんでした。それにも関わらず、0.5Gを下回る回が増えました。さらに、447回まで徐々に0.4G近くまで下がっていっています。途中の445回では0.7G近くまで上昇しています。しかし、この時は一週間前からアルコール度数が低い缶チューハイに戻ったそうです。

448回と451回では、その6日前に趣味に必要な商品の購入をリサーシャのスタッフが手伝いました。不思議なことに、その間に身体の傾きが改善しました。また、衝撃も強くなっていきました。実は、趣味に必要な商品の購入を手伝って以降、その趣味に関連した外出が増えました。この利用者さんは、当施設が商品の購入を手伝う以外、移動は基本的には徒歩です。ひょっとしたら、今までの引きこもり生活から趣味に纏わる外出で徒歩による移動が増えた結果、姿勢が改善されたのかもしれません。

木槌の振り幅とゴム板への衝撃との共通の変化

図1や図2では各出来事に対応するような変化は見られませんでした。しかし、図3と図4には各出来事に対応するような変化が若干見られました。

まず、前回合同会議では、合同会議に参加する人たちに見られながらの計測でした。この時、本人は「見られながらで緊張した」と発言していました。実際に図3と図4のどちらも前の回に比べて振り幅と衝撃が下がっています。これは、緊張したことで腕の動きが小さくなります。その結果、刻印を叩く力が弱くなってしまったことが考えられます。

趣味の準備を開始した次の回では、振り幅が大きく上がっています。その結果、衝撃も0.8Gまで上がっています。

就労支援施設に通い始めた次の回では、前の回より振り幅が上がりました。しかし、衝撃は変わりませんでした。

上半身が左側に傾斜し始めた頃は、左肩が下がっていきました。その結果、木槌を振る右肩が上がって、振り幅が上昇した可能性があります。その後、木槌の振り幅の低下に伴い、ゴム板への衝撃も低下しているように見えます。そして、上半身の左側の傾斜が改善されると共に、木槌の振り幅も上昇し、ゴム板への衝撃も上昇しているように見えます。

ゴム板への衝撃は、木槌を振る際の力の入れ方や制動の仕方だけでなく、木槌の高さも影響します。このため、木槌の振り幅とゴム板への衝撃が相互に関連するような変化が若干見られるのだと思います。

 

 

就労支援について

この利用者さんの就労支援施設の利用目的は、以下の通りでした。

  • 他者との会話を増やす。
  • 将来的には働ける体力を養う。

しかし、もの作りを通して機能低下が起こっている可能性が判明していました。さらに、環境にも慣れにくい傾向がありました。このため、いくつかの施設の見学から始めることになりました。そして、最終的には通所経験があり、知り合いがいる可能性のある施設に通うことになりました。最初の頃は、施設近くにある寄合場で知り合いに会って会話もできたそうです。しかし、コロナの影響で就労支援施設内は、入れる人数が少数に制限されてしまいました。その結果、期待していたほど会話もできないようでした。

このような状況のため、就労支援施設への通所を辞めたいという話が出ていました。過去にも就労支援に通っていたことがありました。しかし、身体的な理由で継続できないということで通所を辞めました。今回の就労支援では、通所手段が問題になりました。そこで、周回バスの時刻表を調べることになり、問題が解消されました。また、普段通院している病院の近くでもあるので、徒歩でもバスでも通えることになりました。

就労施設での作業内容も日によって変わることがあるそうです。しかし、身体的な負担に繋がるような話を本人から聞いたことがほとんどなかったと思います。以前通っていた就労支援施設に座っての作業以外に立って行う作業もあったそうです。それに比べると、椅子に座っての作業だけのようです。

合同会議で本人がどういう判断を下すか心配はありました。しかし、最終的には、本人が自分の意思で就労支援を継続する判断をしました。

この理由として、まず、低価格で昼食を取れることを挙げていました。身体の傾きを指摘されてから、食事にさらに気を配るようになっていました。それで、低価格で昼食がとれるというのが良かったようです。次に、他者との会話に関しては寄合場に行けば話ができることを挙げていました。今後のコロナの状況次第では就労支援施設でも会話ができるかもしれません。

体の傾きは家にいるときの姿勢が原因かもしれませんでした。このため、できるだけ家以外で過ごす必要がありました。就労支援施設への通所も姿勢の改善に有効だったと思います。

 

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