もの作り

なぜ、今「もの作り」なのか?

T&Nリサーシャの「もの作り」は、手を使った活動を通じてご自身の特性を深く理解し、心の土台を築くための自己理解を支援します。

例えば、「また失敗するかもしれない」という不安から一歩を踏み出せずにいる方や、「物事がなぜか長続きしない」「人間関係が苦手で疲れてしまう」といった日常の生きづらさを抱える方が、ご自身のペースで安定した社会生活を目指すことを目的としています。

職業訓練ではない、心の土台を育む場所

つまり、T&Nリサーシャでは、生きづらさを抱える方へ「もの作り」を通した自己理解の支援を行っているのです。これは、高度な職業スキルを身につけるための訓練ではありません。

むしろ、ここは、手を使った活動を通して、ご自身の特性(発達障害、精神的な不調など)と向き合いたい方が、ご自身のペースで自己理解を深め、安定した社会生活のための「心の土台」を育む場所です。

したがって、私たちの「もの作り」による自己理解支援の目的は、何かを完璧に作ること以上に、自分を理解し、受け入れ、コントロールする力を養うことなのです。そして、そのプロセスそのものが、未来への大きな一歩となります。

なぜ「手を使った活動」が有効なのか?

1. 脳を幅広く活性化させます

人間の脳は、指先の動きを司る領域が特に大きく発達しています。そのため、指先を精密に使う活動は、脳の広い範囲を活性化させることが科学的にも分かっています。さらに、これは、特定のスキルを習得するだけでなく、脳全体の働きを促すことにも繋がります。

2. 大切なのは「上手さ」より「プロセス」です

当施設の目的は、作品の完成度を問うことではありません。むしろ、手順に沿って、集中して手を動かし、「できた」という経験を積み重ねるプロセスそのものを重視しています。なぜなら、このプロセスが、自信の回復や、安定した生活を送るための「心の土台」を育むからです。ですから、手先が不器用だと感じていても、全く問題ありませんのでご安心ください。


「4つの壁」を乗り越える、もの作りの力

一方で、私たちは、多くの方が社会参加で直面する課題を「4つの壁」と捉えています。そして、「もの作り」は、これらの壁を乗り越えるための、具体的で実践的なアプローチです。

【手順の壁】を越える

【手順の壁】を越える:「物事が続かない」を乗り越える、着実な成功体験

課題: 指示通りに作業を進めるのが難しい、あるいは、自分のやり方で進めてしまいがちです。実際に、これまでの臨床経験では以下のような傾向が見られています。

  • 自分の能力に見合わない複雑な作品に挑戦してしまう
  • 見本や参考資料を十分に確認しない
  • 分からないまま質問せず、自己流で進めてしまう

それに対して、もの作りでは、まずは簡単な作品から始め、「見本通りに作る」「手順を守る」という経験を積みます。そうすることで、一つ一つの工程をクリアする小さな「できた!」の体験が、着実に作業をやり遂げる自信と力に繋がります。このように、これらの傾向に気づき、改善していくプロセスを通じて、特定の技術習得ではなく、指示を正確に理解し、遂行する力の基礎を養うのです。

ちなみに、厚生労働省の調査によると、中小企業の55.5%が「職務の設定や作業手順の改善が困難だった」と回答しています。したがって、作業手順を正確に遂行する力は、職場における大きな課題の一つです。

出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「平成24年度 障害者職域拡大等調査報告書No.2 中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査

【期間の壁】を越える

【期間の壁】を越える:「もの作り」で集中力・持続力を自分のペースで養う

課題: 長時間、一つのことに集中するのが苦手。
しかし、もの作りでは、制度上の期間に縛られず、一人一人のペースを何よりも大切にします。例えば、革細工や織物といった手を使った活動に没頭する時間は、焦る気持ちを和らげ、目の前のことにじっくりと取り組む「集中力」と「持続力」を自然と育んでいきます。

ご存知の通り、就労移行支援は「最長2年」、就労定着支援は「最長3年」という制度上の期間制限があります。しかし、当施設ではこれらの期間に縛られず、利用者の状態に合わせた準備期間を確保しています。

【理解の壁】を越える

【理解の壁】を越える:客観的な視点で自己理解を深める

課題: 自分の得意・不得意が分からない。周りに理解されにくい。
そこで、もの作りでは、作品をあなたの思考や感情を映し出す「鏡」として活用します。例えば、「なぜかいつも同じ箇所で間違えてしまう」「この作業は驚くほどスムーズに進む」といった発見から、自分の特性を客観的に知ることができます。そして、この「もの作り」を通した自己理解への支援こそが、ご家族や職場との間に共通の理解を築くための第一歩となるのです。

事実、中小企業の17.3%が「現場社員からの理解を得ることが困難だった」と回答しています。つまり、本人・家族・職場の間に共通理解を作ることは、長期的な就労継続の重要な鍵です。

出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「平成24年度 障害者職域拡大等調査報告書No.2 中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査

【再発の壁】を越える

【再発の壁】を越える:ストレスとの付き合い方を学ぶセルフマネジメント

課題: 疲れやストレスに気づけず、無理をして体調を崩してしまう。
そのために、もの作りでは、「少し疲れたから休憩しよう」「今日は集中できないから、ここまで」といった、自分の心身の状態に合わせた調整を学びます。なぜなら、作品作りの過程で自身のコンディションを把握し、コントロールする経験は、安定して活動を続けるための「セルフマネジメント能力」の向上に直結するからです。

ご存知の方もいるかもしれませんが、精神疾患や発達障害のある方は、自分の疲労感やストレスの兆候に気づきにくい傾向が報告されています。そこで、当施設では「疲労の視える化」を行い、無理のない作業ペースを一緒に作っていきます。


あなたの「好き」から始める、もの作りプログラム

当施設では、代表的なプログラムとして「革細工」「織物」「木工」をご用意しています。

しかし、本当に大切なのはあなたの「やってみたい」という気持ちです。そのため、ご希望に合わせて、他のプログラムに取り組むことも可能です。「こんなものを作ってみたい」というあなたの希望を、ぜひ聞かせてください。

いずれにせよ、どの活動も、技術の優劣を競うものではありません。むしろ、作る楽しさや、完成した時の達成感を味わうことを最も大切にしています。

革細工

特徴 目安 こんな方・こんな時に
やり直しやすさ 少し難しい 一度切ったり、穴を開けると元に戻せないため、慎重さや計画性が身につきます。
平面 or 立体 平面→立体 平面の革に模様を刻み、立体的に仕上げていく面白さがあります。
力の加減 調整できる 刻印を打つ際は力が必要ですが、縫う作業は繊細です。

革細工では、主に以下の技法を用います。

  • スタンピング
  • モデリング
  • カービング

 そして、製作段階は以下のようになります。

  1. 基礎:小銭入れ・眼鏡ケース・ペン皿(小)・ペン皿(大)
  2. 応用:札入れ・マチ無しセカンドバッグ・化粧ポーチ
  3. 創造:メルヘン模様眼鏡ケース or メルヘン模様札入れ・自由作品

織物(北欧織り)

特徴 目安 こんな方・こんな時に
やり直しやすさ やさしい 間違えても糸をほどけば、ほぼ完全に元に戻せます。そのため、失敗を恐れずに挑戦できます。
平面 or 立体  平面が中心 絵を描くように、平面で色や模様のデザインそのものに集中できます。
力の加減 ほぼ不要 力を必要としないため、リラックスして取り組めます。

織物では、主に以下の技法を用います。

  • 平織り
  • つづれ織り

 そして、製作段階は以下のようになります。

  1. 基礎:敷物1・敷物2・ポシェット1・ポシェット2・敷物3
  2. 応用:敷物4・敷物5・敷物6
  3. 創造:敷物7・タペストリー・自由作品
【コラム】作品は「自分を映す鏡」:ある利用者さんの物語

ADHDと双極性障害を併せ持つある利用者さんは、織物でポシェット作りに挑戦しました。

ポシェット1

まず、最初の作品(ポシェット1)では、見本をよく確認せず、2枚作るべき同じ柄の布が、それぞれ違う模様になってしまいました。そして、ご本人は「職場でも同じような失敗が多かった」と振り返ります。

ポシェット2

しかし、この「失敗」が転機となります。つまり、自分の「確認を怠る」という特性に気づき、意識して見本を見るようにした結果、次の作品(ポシェット2)では、2枚とも完璧に同じ柄に仕上げることができました。

このように、この経験は、単に織物が上達したということ以上の意味を持ちます。なぜなら、もの作りを通して自分の課題と向き合い、それを乗り越えたという成功体験が、「自分も変われる」という大きな自信に繋がったからです。これこそが、まさに『理解の壁』を乗り越えた瞬間でした。そして、この経験は、私たちの「もの作り」による自己理解支援が目指すものを示す好例です。

木工

特徴 目安 こんな方・こんな時に
やり直しやすさ 調整できる 切りすぎたり、削りすぎると元に戻せませんが、少しずつ進めれば調整は可能です。
平面 or 立体 立体が中心 パーツを組み上げ、立体的な構造物を作る達成感が味わえます。空間認識を使います。
力の加減 やや必要 木材を切る、削る、磨くといった作業にある程度の力が必要です。

木工では、主に以下の技法を用います。

  • 手彫り
  • 寄せ木細工

 そして、製作段階は以下のようになります。

  1. 基礎:ペン立て(小)・仕切り入りペン立て(大)・4つ仕切りペン立て・犬のペン立て・状差し(小)
  2. 応用:コースター・デスクオーガナイザー
  3. 創造:小箱・状差し(大)・自由作品

もの作りだけが、すべてではありません
もちろん、もの作りへの参加は、あくまで選択肢の一つです。
「今日は少し疲れているな」「誰かと話したい気分だな」
もし、そんな日には、無理に作業をする必要はありません。

例えば、スタッフや他の利用者さんとお茶を飲んだり、静かに本を読んだり。
このように、あなたが安心して過ごせること、そのものが回復への大切な一歩だと、私たちは考えています。


あなたの課題解決への「道筋」を、もの作りを通して描きませんか?

T&Nリサーシャの「もの作り」は、単なる作業ではありません。それは、ご自身の特性と向き合い、試行錯誤する中で「やり遂げる自信」と「調整する力」を育む、課題解決のための実践的なプログラムです。

この小さな成功体験の積み重ねが、あなたの「生きづらさ」を乗り越える大きな力になります。

まずは「個別体験相談(無料)」で、はじめの一歩を。

「コースの雰囲気を知りたい」「自分に合うか試してみたい」
そんな方のために、個別体験相談(無料)をご用意しています。

この時間を通して、T&Nリサーシャの支援があなたに合うかどうかを、ご自身でじっくりご判断いただけます。見学や簡単な体験を通して、あなたの課題解決への道筋を一緒に探しましょう。


よくあるご質問

Q
なぜ、もの作りを行うのでしょうか?
A

私たちの身体の動きは、脳によって制御されています。もの作りの際の決まった動作をデータとして記録・分析することで、ご自身でも気づきにくい脳の働きの変化や、心身の状態を間接的に見ることができます。