心の病気は、あなたのせいではない。 -The Huffington Post- | T&N リサーシャ
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心の病気は、あなたのせいではない。 -The Huffington Post-

から精神病が脳の機能障害であることをまとめたという記事が出ていたので紹介しています. この記事を通じて, 「心の病気」と言われる精神病が人格の問題ではなく, 脳の働きの問題であることが少しでも理解されることを期待します.

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心の病気は、あなたのせいではない。 8つの理由

 人によっては, 精神病を発症した人に対して, 発症の原因が真面目や素直, 純粋だから, あるいはその逆でいい加減や怠けものだからという風に, その人の人格を理由に挙げる人がいます. では, 刑務所に入っている受刑者に対してレクリエーションが行われるのは何故でしょうか?例えば, 動物を狭く何もない空間に閉じ込めておく(隔離)とどうなるかというと攻撃性が高まります. ラットやマウスなどのげっ歯類を使って他個体との接触を制限した隔離飼育実験では, 隔離飼育の期間によってその攻撃性が変化します. これはラットやマウスなどの脊椎動物だけに言えることではなく, コオロギなどの無脊椎動物でも同様の変化が見られます. このような攻撃性の変化は, 脳(ラットやマウス)やキノコ体(コオロギ)などの中枢神経系の変化を意味します. つまり, 中枢神経系が環境の影響を受けて変化するということです. 人間も同様で, 善人悪人関係なく, 脳が影響を受ける条件さえ整えば, 精神病は発症します. 例え, 犯罪を犯した受刑者でもレクリエーションなどが行われるのは, 脳の健全性を保つためです.

 今回紹介した記事では, 健常者からしてみれば理解できない行動にも実は意味があるということに気付かされます. 例えば, 統合失調症やうつ病, 躁うつ病(双極性障害)などの精神病には共通して鬱状態があります. この時の状態は, ご家族から見れば何もしていないので, ゴロゴロしている, あるいは怠けていると捉えられがちです. しかし, この記事の「炎症がうつの原因になりうる」という内容を知れば, ご家族から見れば何もしていない状態も, 実は脳の健全性を維持するために必要であることが分かります. 身体の防衛機構が働いて何もできない状態になっているという解釈をすれば, 怠けているという責め心も幾分かは変えられるのではないでしょうか.

心の病気は、あなたのせいではない。 Freepikによるデザイン

精神病に対する偏見

アメリカ疾病管理予防センターによれば, 病状について, 周囲の理解や思いやりを感じていると答えた精神疾患の患者は, 全体のわずか25%しかいない.

 脳機能研究が進んでいるアメリカなら精神病に対する理解ももっと進んでいると思っていましたが, 精神科病院を廃止したイタリアの方がまだ進んでいるのかもしれません. ただ, 当施設を利用されている方の中には, 「周囲の誤解や偏見を恐れて精神病院に入院という形で逃げ込む場合もある」ということを言われていたので, 精神病に対する理解が深まらない間は精神科病院を廃止することが良いとは限らないようです. また, 当施設の利用者さんの中には, 精神科病院では人として見られないという理由で当施設を訪れた方もいました. 統合失調症の陰性症状, うつ病, 躁うつ病(双極性障害)のうつ状態では, 何もできなくなり, 傍から見ているとゴロゴロ寝てばかりいるように見えます. 今回紹介した記事の「炎症がうつの原因になりうる」や「分子レベルの原因でも、うつになる」に書かれているように, 寝てばかりいるのも身体を酷使しないように守るための防衛反応, あるいは他の健康問題を抱えていることが原因かもしれません.

 当施設の代表である関 京子がこれまでの臨床で見てきた統合失調症やうつ病, 躁うつ病(双極性障害)などの精神病の患者さんの中には発病する前まで日常生活で出来ていたことが, 発病を機に出来なくなってしまった方がいるそうです. 例えば, 発病前まで仕事をしていた人が発病後には新聞すら読めなくなり, 小学校で習うような簡単な計算問題ですら出来なくなってしまうこともあったそうです. 精神病の発症は, 本人が理解できないほど能力を奪ってしまうことがあります. そして, 自分の能力が低下していることに気付いたときのショックは計りしれません. 時には, このせいで, 自分に対して物凄い劣等感を持つ場合があります. このため, 発病初期は, 出来るだけ失敗しないような, 簡単な課題で成功体験を積み重ねる必要があります.

 簡単な課題と言っても, 人によって, あるいは病気の程度によってまちまちです. このため, どんなに簡単な課題の成功体験でも, その変化を認め, 評価する必要があると思います. ただ, 医療従事者や家族の中には, 健常者から見れば出来て当然のことなので, 些細な変化も認めず, 評価もしない, 寧ろ見下す場合もあります. この場合, 病気になった本人はますます自信を無くし, 結果的には病気が悪化することもあります. また, 非常に残念なことではありますが, ご家族の中には精神病に対する偏見が強く, 病気になった本人を恥じる場合があります. このため, あまり外に出さないなど, 病気になった本人の行動を制限し, 結果的に成功体験を積み重ねる機会を奪い, 病気を悪化させていることもあります. 当施設では, 利用者さんのご家族に対して出来るだけ本人の積極的な行動を制限せず, また, 変化を認め, 評価していただくように説明しています. 当施設の利用者さんの中には, 数十年に亘って引きこもっていた利用者さんもいますが, 少しずつ自分から課題を見つけるようになり, 着実に課題をこなせるようになってきています. 精神病の発症によって能力が低下したと言っても, 成功体験を積み重ねていくことで時間は掛かっても能力は回復していきます. そして, 症状が安定すれば, 普段接する分には, 健常者と何ら変わりはありません.

精神病の脳

 最近の研究では精神病が遺伝子や脳の発達に起因するということが明らかになりつつあります. 今回紹介した記事でも, 統合失調症と不安障害に関して, 「心の病気には遺伝性がある」, 「統合失調症は、遺伝的変異によって生じうる」という見出しでそのことに触れています. また, 当施設にも不安障害の方が数名いますが, 「不安障害の患者は、世界を違った形で認識している」に書かれている内容は初めて知りました.

不安障害の患者では、感情を揺さぶる出来事のあと、長期間にわたって脳の可塑性が持続する。そのため、脳は新しい未知の状況と、既知の状況や安全な状況とを区別できない。

 当施設では, 脳の可塑性を高めるために様々な「もの作り」ができる環境を目指しています. これは, 豊かな環境(environmantal enrichment)下で飼育された動物の脳内で起こる変化を調査した研究に基づいています. このため, 当施設の利用者さんには, 出来るだけ行動を制限せず, 自由な「もの作り」を利用者さんに提供しています. しかし, 日課表で生活リズムが乱れている場合, その影響を知ってもらうために計測可能な「もの作り」に制限する場合があります. これまでに当施設で見てきた不安障害のある利用者さんは, 最初のうちは中々環境に馴染めず, 定期的に来ることが出来ませんでした. 他の利用者さんは慣れないながらも一週間置きに来るのに対し, 不安障害の利用者さんは数週間, あるいは数か月経ってから来る場合もあります. 新しい環境に身を置くことは, 上記の”感情を揺さぶる出来事”に該当し, “長期間にわたって脳の可塑性が持続する”ので, このような違いがあるのかもしれません. また, 新しいことに挑戦することも嫌がるのも上記のことが関係しているのかもしれません. 

 MRIなどを用いた脳の画像研究では, 統合失調症や躁うつ病(双極性障害)の脳部位の大きさや脳の溝の深さなどにも違いがあることが分かりつつあります. また, 統合失調症や躁うつ病(双極性障害), うつ病では病気の原因が異なるにもかかわらず,  脳に共通した変化が見られるそうです(統合失調症や双極性障害、うつ病など、脳の同じ場所に源か、3カ所に共通の「喪失」確認). この記事によると, 脳の「灰白質」, 「背側前帯状皮質」, 「右島」と「左島」の三つの部位に変化が見られ, 灰白質の減少により以下の10個の課題で影響が見られたそうです.

  • digit span task (working memory):複数の数字を記憶する課題.
  • span of visual memory task (working memory):
  • trail-making task (task switching):紙面上にばら撒かれた数字や文字を順番に辿る課題.
  • color-word Stroop task (interference resolution):色情報か文字情報を答える課題. 例:赤, この場合, 色情報は青, 文字情報は赤.
  • maze task (visuospatial navigation):迷路課題.
  • verbal fluency task:分類された意味のある言葉や手紙の中から出来るだけ多くの言葉を思い出す課題.
  • continuous performance task (sustained attention):連続的に提示される文字や図形からターゲットとなる文字や図形を選択する課題.
  • go/no go task (response inhibition)
  • choice reaction time task (information processing speed)
  • a finger tapping task (motor speed):人差し指などで机をトントン叩く課題.

 上記にも書いた, 精神病の発病前に出来ていたことが発病後に出来なくなったというのは, この灰白質の減少が原因かもしれません. ただ, 当施設で行っている「もの作り」では, どの道具を使って何をどうするかは作業記憶(working memory)やタスク切り替え(task switching)が関係しているであろうし, 革細工の模様を刻印で打つことには視空間ナビゲーション(visuospatial navigation)が関係していると思われます. また, 刻印を打つために木槌を振るのは運動速度(motor speed)が関係しており, 「もの作り」の一部動作を継時的に「計測」していくとちゃんと速くなっていき, ある一定の速度に落ち着きます. また, 「もの作り」も最初はサポートが必要ですが, 最終的には自分で出来るようになります. 技術の習得は脳に変化を与え, 脳の灰白質も増加するようなので, 自分で「もの作り」が出来るようになるのは灰白質の増加と関係があるのかもしれません.

 この記事を書いている間に次ような記事も出たので紹介しておきます.

脳のどの部分に働きの違いが見られるかを人工知能を用いて自閉症を特定することに成功したそうです. 統合失調症やうつ病, 躁うつ病(双極性障害)のような精神病も医師の問診によって診断されます. しかし, 特徴的な症状がないと, この診断がコロコロ変わります. 例えば, 統合失調症の特徴的な症状としては陽性症状の幻聴や幻覚, 妄想などが挙げられるのですが, この症状がなくなると躁うつ病(双極性障害)に変わることがあります. また, その逆で, 躁うつ病(双極性障害)の場合, 妄想とも取れるような発言をすると統合失調症に変わることもあります. いずれにせよ, 当事者の訴えとその訴えに対する医師の主観的な判断で精神病の診断が決まることがあるので, 今回の記事のように脳の部位の働きの違いのような客観的な判断で他の脳機能障害も診断されるようになる日が来れば, 精神病に対する理解も深まるかもしれません. 仮に, 脳の特徴としては統合失調症でも, 統合失調症の症状が見られない場合, 脳の特徴と症状で診断にどちらが優先されるんでしょうかね?

最後に

 精神病は, 精神病を患った人そのものに問題があるのではなく, 脳の働きの問題です. このため, 患った本人にもどうにも制御できない場合があります. なぜ精神病を患ったかは, 偶然にも脳に障害が起きる条件が揃ってしまったとしか言いようがないと思います. 恐らく, どんな病気でもその病気になりたくてなってる人はいないのではないでしょうか?

 精神病の原因が脳の働きの問題であることが明らかになる一方で, その原因をどう解釈するかで病気を良くも悪くもする可能性があります. 例えば, 統合失調症や躁うつ病(双極性障害)では, 活発になったり無気力になったりを周期的に繰り返す場合があります. 仮に無気力になり始めると, 徐々に今までやっていたことをやらなくなっていきます. この逆で, 活発になり始めると, 徐々に今までやらなかったことやるようにもなります. しかし, 自分でまだ行動を制御できるにもかかわらず, 症状の悪化するままに何もしなければ, 結果的には病気が再発してしまう場合があります.

 人によっては, 今回の記事で明らかになった脳のメカニズムを理由に症状の赴くまま?に振る舞うことがあるかもしれません. 例えば, 「うつではサイトカインが出て身体を酷使しないようになるから無理はしません」と言って, 全く何もしない人が出るかもしれません. ただ, もし本当に全く何もしないでいるとどうなるかというと廃用性症候群になって筋力や体力が低下します. そして, 活発になったとしても筋力も体力も低下しているので, ほとんど何もできずにまた無気力になっていきます. この繰り返しで, だんだんと無気力になる期間が伸びていってしまいます. このため, 今までの話と矛盾するかもしれませんが, 多少の無理は必要だと思います.

 当施設では, これまでに「もの作り」の一部の動作を継時的に計測してきました. これは, 精神病が脳の働きの問題であり, この脳の働きの問題が間接的に身体の動きに出るからです. そして, この継時的に計測したデータの変化を見てみると, 病気の克服のために意図的に, あるいは病気の克服を意図せずに偶発的に何らかの無理をしたとき, 数値が変化することがありました. この数値の変化を基に, 計測を行った利用者さんにカウンセリングを行ってみると, 無理しすぎた場合はさらに数値が変化し, 多少の無理でも問題がない場合は数値がさほど変化しないとという結果が得られました. いずれにせよ, 病気を克服しようとする人は, 出来ないなりにも何かしらの挑戦をしているように思われます.