第7回家族会 -ストレスと猟奇- | T&N リサーシャ
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第7回家族会 -ストレスと猟奇-

T&N リサーシャを始めてから今年で5年目となり, 約2年前から始めた3か月おきの家族会も参加人数はまだまだ少ないですが, 今回で7回目となりました. 第7回家族会 の記事のタイトルが「ストレスと猟奇」なので異様かもかもしれませんが, 不思議な共通点?が見られたので, 何かしらの参考になれば幸いです.

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第7回家族会

 約3か月おきに行われる家族会も今回で7回目となりました. 今回は, 前回よりも1名少ない6名でした. 平日午後の開催のため, 仕事の都合などで参加できなかったご家族もいますが, 当施設の家族会を利用されるご家族は全部で8名となりました. 少しずつではありますが, 家族会を利用されるご家族が増えてきています. T&N リサーシャを立ち上げてから今年で5年目になります. 利用者数はまだまだ少ないですが, 日によっては複数の利用者さんが一堂に会する機会も増えてきています. そのおかげで, 利用者さん同士の交流が増え, 色々な情報交換をしている様子も見られます. また, 他の利用者さんとの交流を通じて, 今までに身につけることが出来なかった社会性を身につける機会が増えてきているように思われます. 富山大学の家族会では患者さんとそのご家族が集まってボウリングなどのイベントを行うことがあります. しかし, T&N リサーシャではまだ利用者さんとそのご家族が集まってというのは, クリスマス会で一部のご家族が参加したことはありますが, まだありません. 今後は, この家族会に利用者さん本人も参加する機会が増えれば良いと考えています.

第7回家族会

photo by カメラ兄さんさん

それぞれの変化

不安神経障害の方の場合

 不安神経障害で20年以上引きこもっていた利用者さんは, 以前に比べて明るくなり, 外に出たがるようになったそうです. 引きこもりと言っても, ご家族や特定の人と一緒であれば外出することが出来ます. しかし, 当施設に来る前までは一人で外出するということが出来ませんでした. このため, 当施設に来始めた頃は, 毎週来ることが出来ず, 時には数か月置きに来るのがやっとでした. ところが, ある時期から毎週休まずに来れるようになり, 今まで出来なかった一人でバスに乗ることにも挑戦するようになりました. その結果, 少しずつではありますが, 一人でバスに乗って当施設に来るようになっています. 今回の家族会を開く前に, このバスに乗ることが「もの作り」の動作に影響を与えているような変化が見られました. そこで, この変化を家族会で紹介したところ, 他のご家族も驚かれたので, 本人の承諾を得て, ここでも紹介したいと思います.

change-of-shaking-width-by-図1.木槌の振り幅の変化 change-of-impact-by-getting図2.木槌による衝撃の変化

 当施設では, 開設当初から, 希望者に対して革細工で木槌を振る動作の計測を行っています. 不安神経障害のこの利用者さんも来た当初から計測を行っています. 計測では, 革に引いた5cm幅の線上で, 同じ場所を2回打ってずらすという動作を約50回行ってもらいます. 図1のシンボルや図2のバーは50回の平均値を表します. 上の図は, その動作で木槌を振った幅(図1)とその時にゴム板に生じた衝撃値の変化の一部を抜き出したものです. 58回目と59回目は利用者さんが一人でバスに乗って当施設を訪れた日です. 60回目はご家族と一緒にバスに乗って当施設を訪れた日です. 木槌の振り幅も木槌による衝撃も, ご家族とバスに乗った60回目は, 一人でバスに乗った58回目と59回目に比べて有意に高くなっています(p<0.001). 61回目と62回目は, バスではなく, ご家族に車で送ってもらった日ですが, 60回目に比べてどちらも有意に下がっています(p<0.001). この変化に関して, 本人に尋ねてみると, 「一人でバスに乗るときより疲れた」とのことでした. 今までも家族と外出していたはずなので, 家族と一緒にバスに乗って疲れたという答えを聞いた当初は疑問を感じました. また, この話を家族会に参加された他のご家族に話した時も, 多くのご家族が疑問を感じたようでした.

 実は, この利用者さんは今までに一人でバスに乗るときは座る場所に定位置があり, その場所だと乗客が視界に入らないので, バスに乗るのが平気だったそうです. ところが, 変化が見られた61回目の日は, ご家族と初めて一緒にバスに乗り, しかも定位置に座ることができなかったため, 視界に乗客が入り, 相当緊張してしまったそうです. また, 現時点では, バスで来ることは出来ますが, 帰ることが出来ません. 行きでバスに乗れるなら, 帰りもバスに乗れそうに思うのですが, ちょっとした環境の違いで同じことが出来なくなってしまいます. 以前, このブログで紹介したハフィントンポストの「」でも不安神経障害の脳の違いについて触れています.

 私たちは子供の頃から様々な経験を通じて, 今まで出来なかったことがいつの間にかできるようになっています. また, 子供の頃から現在に至るまでを思い出してみると, 初めて何かをするときは不安や緊張, 興奮や恐怖など様々な感情の変化を感じるものでしたが, 似たような経験を繰り返すと徐々にこのような感情の変化は薄れていくと思います. これらの変化は, 脳が学習した結果です. しかし, この脳の学習に問題があると, 上記の感情の変化が薄れていくということが中々起きません. 精神病などの脳に何らかの障害がある人が新しい環境に中々馴染めないことに対して, 気合いや根性などの精神論で説き伏せようとする人もいますが, 環境に馴れるかどうかは脳の学習の問題なので, 精神論だけではどうにもならない場合があります. また, 学習は繰り返すことによって強化されますが, だからといって本人に無理強いした場合, 不安や恐怖ばかりが強化されて益々外に出れなくなってしまう可能性があります. 当施設を利用されているこの不安神経障害の利用者さんには何かを強制することは一切ありません. そして, 現在では週に一度, 当施設に通うようになり, いつも通う曜日が駄目な時は自分から別の曜日に変えて通うまでになっています. また, 色々なことに挑戦したいという気持ちも芽生えているそうです.

自閉症の方の場合

 自閉症の可能性があって当施設を利用されている方は, 当施設を訪れた当初, あらゆることを面倒くさがって言うことを聞かず, 勉強やもの作りもやりたがりませんでした. また, お腹が空くと当施設の棚や台所を家探しして飴などのお菓子を勝手に食べてしまうということも続きました. しかし, 現在では, お菓子のために家探しをすることもなく, お腹が空いてどうしようもない時は食べて良いかを確認するまでになりました. また, 勉強も自分から進んでやるようにもなってきています. この変化には他の利用者さんの存在が大きいと思います. 他の利用者さんとの交流が行動の変化に大きな影響を与えています.

 これまでのカウンセリングの中で, この利用者さんは自分が見る夢に関して話をすることがあります. その夢の内容を本人は楽しそうに話すのですが, 暴力的な表現もあり, 聞いてる側からしてみれば悪夢に近く, あまり楽しそうに話す内容ではありませんでした. ただ, 悪夢を見る時は自分の状態が悪い時と理解するようになったので, 自分の夢の内容からストレスを訴えるようになりました. そのおかげで, 夢の内容から本人が悩みやストレスを抱えて居ることが把握できるようになりました. そして, 自分からご家族に話せない場合はこちらから間接的に本人が抱えている悩みやストレスをご家族に伝えることが出来るようになりました. 最近は, 暴力的な表現がある悪夢を見なくなったそうです.

 今回の家族会で初めてご家族から聞いた話ですが, 今まではスティックシュガーを何本か持ち歩いて舐めていたそうです. ところが, 最近ではスティックシュガーを持ち歩かなくなっています. 確かに, 当施設に来た当初は味覚異常を疑うぐらいに甘い物を欲していました. 飴をかみ砕いて食べるので, 2時間の利用時間の間に5個以上も食べ, 砂糖が入った粉のレモンティーをティーカップに半分近くも入れて飲んだりもしていました. 現在では, ストレスを感じた時は飴を食べることはまだ偶にありますが, 高濃度のレモンティーを飲むことは完全になくなりました. また, 自分でも状態が好転していることを自覚しています. ストレスを感じると甘いものを食べるという行動に関してですが、過去にげっ歯目を用いたこんな研究があったので、以下に紹介しておきます。

コミュニケーション障害の方の場合

 コミュニケーション障害で当施設を利用されている利用者さんは, 最近では親子喧嘩で自分の意見を言うようになったそうです. また, 最近では家事などの家の仕事も手伝ってもらうようにしたとのことでした. 当施設では, 家で何も出来ない, あるいはしないお子さんがいる場合, 家事などの家の手伝いを少しずつしてもらうことを推奨しています. 今まで引きこもっていて身体をあまり動かすことがない場合, 本人が思っている以上に体力が低下している場合があります. このため, 最初は出来るだけ簡単な家事から始めてもらいます. 今までは人と一緒に何かをするのが苦手だったそうですが, 現在では家族となら何かをすることが出来るようになってきたそうです.

 ちなみに, この利用者さんが当施設を訪れた当初は, 病院の精神科やメンタルクリニックを受診したことがなく, コミュニケーション障害という診断名も付いていませんでした. この利用者さんは当施設で行っている「もの作り」の計測を行っていました. ところが, 以下に示す図のように, 他の利用者さんから得られたデータの平均値と比較すると幾つかの違いが見られました. これまでの利用者さんは数日おきに計測を繰り返すと, 木槌の振り幅が小さくなって大体4~6cmの範囲に収まります(図3). また, 力加減の変化を見るために木槌による衝撃の変化を追跡していくと, これまでの利用者さんは大体0.6~0.8Gの範囲に収まります(図4). ところが, このコミュニケーション障害の利用者さんの場合, 木槌の振り幅が小さくならず, 木槌による衝撃も小さくなりませんでした. そこで, この違いについてご家族と面談したところ, 面談の中で出産時にへその緒が首に絡まって酸欠状態となり, チアノーゼを起こして生まれてきたという話を聞くことが出来ました.

compare-with-C.D.-for-shaki図3.木槌の振り幅の比較 compare-with-C.D.-for-impac図4.木槌による衝撃の比較

 脳の発達障害を再現する動物モデルの中には, 出産直後のラットやマウスなどのげっ歯類の新生児に対して脳虚血の手術をする方法があります. これは, 頸動脈の血流を一時的に止めて脳を虚血状態にすることで新生児の脳の発達を阻害します. この動物モデルが統合失調症などの精神病モデルとして扱われる場合があったので, このコミュニケーション障害の利用者さんとそのご家族にこの動物モデルの話をしたことがメンタルクリニックを受診する切っ掛けの一つになりました. 上記のデータ変化の違いや精神病モデル動物の話を聞くまでは, ご家族もお子さんの行動に見られる漠然とした違和感をどう捉えて良いか分からなかったようです. しかし, 脳が周産期前後に何かしらのダメージを受けると行動異常が見られるようになることや単純な木槌の動作にさえ他の利用者さんとの違いが見られたことで, お子さんに見られる行動の違和感が人間性の問題ではなく, 脳の機能の問題かもしれないことに若干安心したそうです.

ストレスと猟奇

 「猟奇」の意味を調べると, 「怪奇・異常なことに興味を持ち, 探し求めること」だそうです. 当施設を利用されている数名の10代の利用者さんの中に, 利用当初, 会話の中で奇妙な内容が出てくることが頻繁にありました. それは, ある利用者さんの場合, 夢の内容だったり, 漫画や小説の内容だったりでした. それでも, 楽しそうに話すので, 最初のうちは怖いもの見たさでグロテスクな物に興味があるのかと思っていました. しかし, 会話を重ねるごとにそれがいじめと関連しているということが分かってきました. 例えば, 夢に出てくる登場人物が現実のいじめてくる相手だったり, またはその相手を別のもの(犬などの動物)に置き換えていました. また, グロテスクな表現のある猟奇的な小説を読んでおり, その内容を夢に出てくる登場人物に当てはめているようでした.

 ひょっとしたら, 悪夢はいじめてくる相手に仕返しをする場であり, 猟奇的な内容の小説や漫画などを読んでいたのはその悪夢の中でいじめてくる相手に仕返しをする方法を参考にするためだったのかもしれません. 本人がどこまで考えてそのような本を読んでいたのかはあまり深くは聞けていないので, これはあくまでも推測です. 今回の家族会の前に聞いた話では, 悪夢をあまり見なくなり, 以前読んでいた猟奇的な小説も気持ち悪くて読めなくなったと言うようになりました. 本人自体, 悪夢を見たり, 猟奇的な小説を読んだりしていた時の精神状態を自覚しており, 鬱状態であったそうです. そして, この時は相当なストレスがあったと言っていました. 当施設に来た頃は, 報復を恐れていじめてくる相手に対して反撃することを拒否していたのですが, ある時に反撃したそうで暴力的ないじめをされることがなくなったそうです. この結果, 現在ではストレスが緩和され, 奇妙な悪夢を見たり, 猟奇的な小説も読めなくなったと本人が言っています.

 今回の家族会でこの話をしたところ, 別のご家族のお子さんでも猟奇的な内容の映画を観たりしていたそうです. 普段は, あまり個人の趣味や嗜好について話さないので, たまたまそういうのが好きなのかもしれません. 時々話す内容の中には猟奇的なものが含まれる場合もありますが, それがストレスと関係しているかどうかは本人も話さないので推測の域を出ません. ただ, これらの利用者さんには, 第5回の家族会で話が出たのですが, いじめを受けていたという共通点もありました. お子さんが猟奇的な内容に興味を持っている場合, ひょっとしたらそれは日常生活の中で何かしらのストレスを抱えているサインかもしれないので, その行為を咎めるのではなく, まず理由を尋ねてみることが必要かもしれません.

最後に

 今回の家族会を通じて, 当施設の中だけでなく, 家でもご家族が認識できるだけの変化が見られていることが分かりました. しかし, 必ずしも良い変化だけが起こっている訳ではありません. 状態が良くなって活動範囲が広くなってくると社会の様々な変化に触れることになり, 現実的な事を考えるようになります. この結果, 今の自分と現実の世界とを照らし合わせ, 自分の現状を悲観してしまう場合があります. 利用者さんの中には, 当施設に来る前までは将来のことを考えることがなかったのに最近では将来のことを考えるようになって不安が強くなったと言う方もいます. ただ, 現状を悲観するだけでは何も変わりません. 例え, 不安が強くとも何かをすれば何かが変わります. 少なくとも, 何もしないよりは何かをしていた方が体力の低下を防げるので, 社会復帰をした場合は通常時間の労働への移行が早いです.

 ちょっとした環境の変化によって今まで出来ていたことが出来なくなるのは不安神経障害だけではありません. 過去に故 関 昌家から, 精神病の一つである統合失調症の患者さんが場所や材料が変わっただけで同じものが作れなくなったという事を聞いたことがあります. 環境への適応は脳の学習が関与しているので, この部分に何らかの障害がある場合, ちょっとした環境の変化に適応するにもかなりの労力が必要になります. このことを知っているか知らないかでは, 病気や障害に対してどう向き合うかも違ってくるかもしれません. 人によっては, すぐに出来ないことに焦りを感じたり, 逆に原因が分かって安心したりする場合があります. ただ, どちらにも共通しているのは, 脳に何かしら機能障害がある場合は, その機能回復に学習が関与していることは明らかで, 今のところ学習には繰り返しが必要ということです.

 これまでの利用者さんへのカウンセリングや家族会でのご家族からの話で, 本人からは聞けなかった話も聞くことが出来ました. 特にいじめられた経験を持つ利用者さんが猟奇的な内容に興味を持っていたというのは意外でした. また, この利用者さん達は, 現在, 猟奇的な内容の小説や漫画などを観たり読んだりすることはなくなっているとのことでした. 1人はいじめがなくなってストレスが緩和されたことが原因であることは分かったのですが, 他の利用者さんは何が原因かは分かっていません. ただ, ストレスの原因を取り除くには, 自分の力で何とかしようとするのも大事ですが, 周りの力も重要です. ストレスの原因を直接取り除くことが出来なくても, 話を聞くことで, ストレスを取り除く方法をアドバイスすることができる場合もありますし, 本人が自分の力でストレスの原因を取り除く方法を思いつく場合もあります.

 今回の家族会に参加されているご家族の話を聞いていると, お子さんの病気や障害を何とか理解したいという発言が目立った様に思います. この理由として, 一つは今までに当施設が行ってきた計測のデータの中からどういうことが問題になっているかを言えるようになってきたことが挙げられます. 次に, 今までに出来なかったことが出来るようになったり, 言わなかったことを言うようになったりと行動の変化が見られるようになったことが挙げられます. ご家族が病気や障害を理解しようとしてくれるのは, 非常に大事なことだと思います. 他方では, 病気や障害の診断名が付いているにも関わらず, ご家族にその病気や障害の問題を理解も関心も示してもらえない方もいます. このため, 治療に必要なお金を捻出できず, 現状を変えられないという問題もあります. 脳の機能障害は目に見えず, 中々理解しがたいものがあります. このことを考えると脳の機能障害が色々な形で目で見て理解できるようになる必要があると考えます.