第6回 家族会 [大人のサークル]

リサーシャ
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家族会を始めるようになって約1年半以上が経ち, 第6回 家族会 を行うこととなりました. 当施設の家族会は, 精神病のお子さんの家での様子を伺い, その様子の変化から病気の状態を知り, 情報の共有を行える機会になることを願って開催されています. 家族会の内容が精神病のお子さんを持つご家族の参考になれば幸いです.

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第6回 家族会 について

 先日, 第6回 家族会 を行いました. 約 3か月に1回のペースで行われる家族会も今回で6回目となります. 今回は新しいご家族も参加し, 前回よりも1名多い7名でした. 平日午後の開催のため, 仕事の都合などで参加できなかったご家族もいましたが, 多くのご家族に参加していただけました. 既に複数回, 家族会を通じて顔を合わせたご家族もあり, また, お子さん同士が交流を持つようになったことで挨拶を交わすご家族も見られるようになってきました.

 当施設では利用者さん同士の交流については, 特に制限を設けていません. 実社会では, 様々な人と交流することがあり, その交流の中で様々な問題も生じます. そして, 精神病の方の中には, 人との交流を苦手とする人が多く, 仮に社会復帰を果たしても人との交流が上手くいかずに病状が悪化し, 社会復帰を断念してしまう場合があります. 人との交流で起こりうる問題を解決できるかどうかは経験に依存します. 施設内外での交流を制限することは, このような機会を奪うことに繋がります.

 また, 同じ施設を利用するということは, お互い顔見知りになり, 親しみやすいです. いきなり見ず知らずの人との交流を図るより, 既に慣れた人と徐々に交流を持ち, 経験を積んでいった方が良いと思われます. このため, 当施設では, 利用者さんの間で問題が起こる可能性はありますが, 問題が起こっても解決できるよう, 出来るだけ利用者さん同士で交流を持てるようにしています. そして, 今回参加されたご家族のお子さんの中には, 当施設の利用を終えた後, 一緒に帰るようになったお子さん達もいます. また, 今まではクリスマス会など, 複数人で何かをすることを頑なに嫌がっていた利用者さんが, 去年のクリスマス会では複数人でクッキーを焼くことにも参加しました.

 

第6回 家族会

photo by チョコラテ

 

過去への拘り

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photo by Sasha Wolff

 今回参加されたご家族の中に, お子さんの過去への拘りの強さを訴える方がいました. 拘る内容は学校や職場での人間関係に関する内容で, 壊れたテープレコーダーのようにいつまでも同じことを繰り返して話すとのことでした. 精神病の特徴の一つに, 何かに拘り続ける, 固執性というものがあります. ただ, この固執性は, 病気の改善や他への興味によって減っていきます. 前述のお子さんの場合も, 自分の興味があることを話している間は問題ないそうです. ただ, 最近は, 病院に通って外に出ていたのが, また家に籠ることが増えたとのことでした. 家に籠って何も変わらない日が続くと, その分だけ, 自分の興味に繋がることに出会う機会も減ってしまいます. そして, 過去に拘る時間が増え, 病気が悪化する可能性が高くなります.

 当施設に通っている利用者さんの中にも, 過去への拘りが強く, 同じことを何度も話す利用者さんがいます. しかし, 何回も話す内に飽きもあるのか, 同じことを話す回数が徐々に減っていき, いつの間にか「もの作り」に取り組むようになったり, 別の話をする機会が増えてきています. また, 過去に経験した嫌な話に触れると, 以前までは自分の正当性ばかりを主張し, こちらの話に耳を傾けようとはしませんでした. しかし, 最近ではこちらの話に耳を傾けるようになり, 考え込むようにもなってきました. この変化には, 他の施設の方も驚いたようで, 見学に来るほどでした.

 統合失調症やうつ病などの精神病では, 脳内の記憶・学習に関係する海馬という部分に問題があると言われています. 海馬には神経幹細胞が生まれる(神経新生)部位があり, この神経幹細胞が脳の修復や機能維持に関与するとも考えられています. 過去に, マウスなどのげっ歯類を用いて, この神経幹細胞の新生を薬物で一時的に阻害し, 以下の条件で比較を行った実験があります.

  • 神経新生が阻害される前
  • 薬を打って神経新生が阻害された後
  • 神経新生が回復した後

これらの条件で迷路課題による記憶・学習を比較したところ, 神経新生を阻害されている時の方が迷路課題の成績が良かった(迷路課題をよく覚えている)という結果を報告した研究もあります.

 このように, 脳の障害の仕方によっては, 記憶・学習能力が悪くなるどころか良くなってしまう?場合もあります. 過去に拘るというのは, 言い換えれば, 過去のことを良く覚えているということでもあります. 仮に, 過去への拘りが脳の障害によって起こっているとしたら, ご家族がいくら「過去に拘るな」と言っても, 本人にもどうしようもないことなのかもしれません. ご家族の中には, 何とかしてお子さんを当施設に通わせたいという方もいらっしゃいます. しかし, 本人の意思に反して何かを強制する行為も海馬の神経新生を阻害する可能性があるので, 自分の意思で判断するまで, ご家族に待つように当施設では勧めています.

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感覚が鈍い?

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image by Freepik.com

 今回の家族会で共通したことに, 感覚が鈍いということが挙げられます. その理由として, まず最初に挙がったのが, 温度感覚で, 家では年中, 裸足でいるとのことでした. 例えば, 冬の寒い時期にも関わらず, 裸足で足の指先が紫色になっていても気にしないのだそうです. ひどい時には, 霜焼けにまでなるとのことでした. 次に, 季節に合わない服装をすることが多く, 例えば, 夏場で暑いはずなのに長袖でいたり, 逆に冬場で寒いはずなの半袖でいたりと, とにかく服装に季節感がないことを訴えるご家族がいました.

 次に挙げられたのは味覚です. 当施設の利用者さんの中には, やたらと甘い物を欲しがるお子さんが数名います. そして, 誰でも自由に食べられるようにと飴をいくつか置いておくと短時間のうちにかみ砕いて全部食べてしまったりします. そして, 足りない場合, 施設内を探し回ってお菓子を物色する時もありました. あるいは, 飲み物などに大量の砂糖を入れたりするので, 試しに飲ませてもらったら, 甘すぎてとても飲めませんでした. このような行動は, 当施設の代表である関 京子が見てきた病院の患者さんにも見られていたそうです. そして, 病気の改善とともに減っていくそうです. 実際, 当施設の利用者さんであるそのお子さん達も, 飴を食べる量が減り, お菓子の物色も現在はほとんどすることがなくなりました.

 精神病のモデル動物を評価する方法には, ホットプレートテストというものがあります. これはラットやマウスなどのげっ歯類を50度以上に熱した鉄板の上に置き, 脚をなめたり擦り合わせたりするまでの時間を計り, 感覚入力の異常を評価します. 統合失調症などの精神病モデル動物は, この時間が通常よりも長くなります. 今回参加されたご家族の中には診断名が付かないお子さんがおり, このお子さん達に見られる感覚の鈍さはひょっとしたら何かしらの精神病の兆候を暗示しているのかもしれません.

 

 

最後に

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photo by シラタマ

 現在, 当施設に通われる方の多くがイヤホンやヘッドホンをしながら来所します. その理由は色々ありますが, よくあるのが人の話し声が自分の悪口のように聞こえるということでした. そのため, 外出時にはイヤホンやヘッドホンが外せないそうです. それでも, 当施設の室内では, どのお子さんも皆, イヤホンやヘッドホンをちゃんと外します. あるご家族が, 病院内でもイヤホンを外せないのにリサーシャではどうして外せるのかを本人に尋ねたところ, 「リサーシャでは皆が自由に好きなことをやっているから気にならない」, また「大人のサークルの集まりに感じるから楽しい」とのことでした.

 当施設では, 利用者さんができるだけ自由に振る舞える環境作りを目指しています. その理由は, 当施設の名付け親でもある故 関 昌家の願いであると同時に, 生前から訴えていた臨床での「環境の豊かさ(environmental enrichment )」の再現でもあるからです. 最近の研究では, 精神病の原因が遺伝子の異常だけでなく, 産まれる前と後の周産期前後の環境も関係していることが明らかになっています. 例えば, ラットやマウスの胎生期のある時期に脳が発達するのですが, この発達を障害する時期によって自閉症や統合失調症の精神病モデル動物になります. また, 産まれてから56日の間も脳の発達時期であり, この発達を障害する時期によっては統合失調症やうつ病などの精神病モデル動物になるとも言われています. ところが, 「環境の豊かさ」によっては, これらの精神病モデル動物に見られる異常が改善されることも報告されています.

 私たち人間の脳も, 他の動物と同じように環境の影響を受けて変化します. そのため, 上記の精神病モデル動物のように, 環境によっては脳の発達が阻害され, 精神病になってしまう可能性があります. しかし, 何度も言うように, 脳は環境の影響を受けて変化するので, 良い環境であれば精神病が改善される可能性もあります. 今回の家族会では本人の口からは聞けない, ご家族から見たいくつかの変化を聞くことができました.

  • 人に話しかけられるようになってきた.
  • 漢字の勉強が苦にならなくなってきた.
  • 洗濯物を畳む様になった.
  • 将来的な話をしても暗くならなくなってきた.
  • 家の掃除を手伝うようになってきた.

人によっては, 些細なことで改善とは捉えられないかもしれません. しかし, このような些細な改善の積み重ねが大きな改善に繋がる場合があります.

 環境の変化が脳に与える影響は, 時間が掛かり, 非常に分かりにくいです. そして, その影響を受けるかどうかも人それぞれです. そして, 脳に影響を与えているかどうかは, 行動の変化に見られます. さらに, 行動の変化は, 日々の継時的な観察によってのみ捉えることが出来ます. 当施設では, この継時的な観察を日課表段階的なもの作り, そして, もの作りの動作の計測を行うことで実現しています. また, 家族面談家族会を通じて間接的に, ご家族から利用者さんの日々の変化を窺い知ることが出来ます. 今回の家族会では「大人のサークル」という言葉を聞きました. 当施設では, 将来, 今行っている家族会をご家族だけでなく, 本人も含めた家族会にしていきたいと考えています. そして, 本人やご家族を含めて色々なことが出来る「大人のサークル」を目指していけたらと考えています.

 

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