第72回金沢市工芸展 [タモ拭漆箱(タモは木偏に、弗)] | T&N リサーシャ
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第72回金沢市工芸展 [タモ拭漆箱(タモは木偏に、弗)]

平成28年3月9日から14日まで, めいてつ・エムザで 第72回金沢市工芸展 が開催されます. 去年から第6期の金沢市希少伝統産業木工専門塾が始まり, 今回の作品で4回目の出品となります. 今回の作品は, 指物で, 初の箱です. 作品名は, タモ拭漆箱(タモは木偏に弗)です.

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第72回金沢市工芸展

 今回の第72回金沢市工芸展で4回目の出品となりました. 第69回と第70回では刳物(くりもの)を出品し, 第69回ではタモ拭漆手刳六角盆(たも ふきうるし てぐり ろっかくぼん, タモは木偏に弗), 第70回では楓拭漆器(かえで ふきうるし き)を出品しました. そして, 第71回からは指物(さしもの)を出品し, 栓拭漆象嵌四方盆(せん ふきうるし ぞうがん しほうぼん)を出品しました. これまでの三作品は盆が中心でしたが, 今回は指物で初の箱を出品しました. 木工作品の出品者は年々増えているそうなので, 入選するかどうかも難しくなってきているようです. 今回の指物の箱は, 今までの作品と異なって拭漆を行う面積が広く, 漆を塗ってから拭う過程で, 表面に爪などによる疵が付きやすく, 細かい疵がいくつか付いてしまいました. 入選されるかどうか心配だったのですが, 無事に入選したので, 良かったです.

第72回金沢市工芸展

タモ拭漆箱(タモは木偏に, 弗)

 今回の作品は指物の箱です. 箱は, 被せ蓋で, 中の身は2段になっています. 被せ蓋の上側部分の天板は, 甲盛(こうもり)という緩やかに湾曲した形状になっています. コップなどに水を張った時に, 水の表面が表面張力で盛り上がっているような形をイメージしてもらえれば良いと思います. また, 被せ蓋の四隅の角は, 鎬(しのぎ)の形状になっています. 表面の光沢は, 拭漆という, 下地漆を塗っては拭うという工程を数十回繰り返しすことで出てきます. 漆を塗ると, 木材が想像以上に変形し, 身が被せ蓋に入らなくなってしまうこともありました. 今まで作成した盆ではこのように変形することがなかった, あるいは変形していたとしても気付くことがなかったので, 木で箱を作る難しさをこの時初めて実感しました.

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箱の条件

 今回の箱を制作する過程で, いくつかの条件がありました. その条件を挙げたいと思います. これらの条件を満たすためには, 被せ蓋や身に対して微妙な調整をしなければならず, 思いのほか苦労しました. 以下の条件を満たすために, どのような調整を施せば良いかを考えてみると面白いかもしれません.

1. 被せ蓋を外す際, 中の身の2段目が被せ蓋と一緒に外れない.

 動画では一応, 力加減をしてゆっくりと被せ蓋を持ちあげると, この条件を何とか満たすことが出来ました. 素早く被せ蓋を持ち上げようとすると, 箱全体が持ち上がってしまうので, 注意が必要です.

2. 中の身の2段目を外す際, 1段目が浮かない.

 2段目もゆっくりと持ち上げれば, この条件を何とか満たすことが出来ました. この条件も, 素早く2段目を持ち上げようとすると, それに吊られるようにして1段目が持ち上がってしまうので, これも注意が必要です.

3. 被せ蓋を身に被せる際, 被せ蓋がゆっくり最後まで下がる.

 この条件を最初に満たせるかどうかが2と3の条件を満たせるかどうかに繋がるのではないかと思います. 動画でも特に問題なく, 被せ蓋がゆっくりと最後まで下がっていきます. 実は, この被せ蓋が最後まで下がるというのが意外と難しく, その理由は身の形にあります. この身の形がちゃんとしていないと被せ蓋がゆっくり下がり, かつ最後まで下がるという条件を満たせません.

 1から3の条件を満たすためには, まず, 3の条件である被せ蓋を身に被せた際, 被せ蓋の自重で蓋がゆっくりと下がる必要があります. これを実現するには身を削らなければなりません. 身を削り過ぎると元には戻せないので, 少し削っては被せ蓋を被せるということを繰り返します. 身を削る際には被せ蓋を外すので, 1の条件である被せ蓋を外す際に2段目が一緒に外れない, を満たせるかも確認します. 1と3の条件が満たせたら, 今度は2の条件が満たせるよう, 身の2段目の高台の外側や1段目の内側を削ります. 1段目の内側や2段目の高台を削りすぎると, 被せ蓋を外す際に2段目も一緒に外れやすくなります. 逆に, 削りが足りないと, 2段目を外す際に1段目が外れにくくなります.1から3の条件を満たすのは, 思いのほか大変で、手伝ってもらうことが多かったです.

 各条件を満たすためには微妙な研磨が必要で, 場合によっては何度も行う必要があります. 例えば, 拭漆で漆を塗る前にこの調整をした場合, 拭漆で漆を塗った後に被せ蓋が変形し, 1と3の条件が満たせなくなってしまいました. 私の場合, 木が内側に湾曲して蓋の口が小さくなり, 身が入らなくなってしまうという問題が起こりました. このため, 被せ蓋の中に突っ張り棒を入れ, 外側から拭漆を行って乾かし, 次に内側から拭漆を行って乾かすという作業を交互に行いました. こうすることで木の変形を抑え, 1と3の条件を再び満たすことが出来ました. しかし, 仮に木が外側に反ってしまった場合, 外側から木を押さえなければいけないので, もっと手間が掛かったかもしれません. 今回の作品を通じて, 木で箱を組む場合, 木がどのように変形するかを考慮しながら対策を立てなければならないということの難しさを知りました.

最後に

 金沢市希少伝統産業木工専門塾で, 体験入塾から木工を習い始めて約6年が経ちました. 毎週土曜日の13時から17時45分までの約5時間という限られた時間の中で, 鑿(のみ)の基本的な使い方を学ぶための刳物(くりもの)から始まり, 基本的な木の組み方を学ぶために指物の花台, 四方盆, 箱と段階的に木工でのもの作りを学んできました. 週に1回のペースで作り続け, 今回の箱は完成までに1年掛かりました. 当然のことながら, 毎日継続すれば, 技術の向上や作品を完成させる期間も短縮できるでしょう.

 ところで, 当施設では, 革細工や織物などを用いて「段階的なもの作り」を行うことで, 精神病やその可能性のある方の問題を捉えやすくしております. そして, ここで捉えられた問題は, 社会復帰して仕事を行う上でも共通する場合があります. 例えば, 当施設の代表である関 京子がこれまでに勤めてきた病院の患者さんは, もの作りに必要な道具の準備や片付けがまず出来ないそうです. 実際, 当施設に通い始めた利用者さんにもこの傾向が当てはまります. 中には, 今まで会社勤めをしてきた方でさえ, 精神病の発病によって, 道具が何処にあるか, あるいは何処に片づけたら良いかさえ質問できない場合があります. このため, 当施設の環境に馴れるところから始め, 徐々にもの作りに取り組んでもらい, 社会復帰を果たす上で何が問題になるかを一つ一つ明らかにしていきます.

 「段階的なもの作り」で一つ一つ問題を明らかにして解決していくと, 徐々にではありますが, 自分から質問したりするようになり, 道具の準備や片付けもこちらから何も言わずとも自然にするようになります. また, 当施設では, 「段階的なもの作り」と並行して, もの作りの一部の動作を継時的に数値化する計測も希望者に対して行っております. これまでに, 統合失調症, うつ病, 躁うつ病(双極性障害), 不安神経症など, 様々な方がこの計測に参加されています. そして, この計測を通じて, 計測するこちら側としては偶に困ったことがあります. それは, 計測している利用者さんがある日突然, 長期に亘って休んでしまうということです. 利用者さんによっては, 最長で206日間休まれた方もいます. 現在, その利用者さんは, 結婚し, 社会復帰もなされています. 本来の研究であれば, このように突発的に長期間休まれることは条件の統一ができないため, 非常に問題になります. ただ, 当施設の計測は, 研究目的で行っている訳ではなく, 日常の様々な出来事が利用者さんのもの作り(仕事)にどのような影響があるかを数値で客観的に知ってもらうことが目的です.

 さて, 病院の患者さんでも, 当施設の利用者さんでも, 前述したように突発的に長期間休まれる場合があります. 中には, 休んだことを気に病んで, ますます当施設に通う足が重くなってしまう利用者さんもおられます. では, このような利用者さんが長期の間を空けて計測を行った場合, その数値の変化はどうなるのか? 結論から言えば, 悪くなることはありません. ほとんど変わらないか, むしろ, 逆に良くなっている場合もあります. 計測を行っている利用者さんが長期に休んだ場合, 数値の悪化を心配されることが多いのですが, 数値の変化が変わらない, あるいは良くなっているので, 安心されることの方が非常に多いです. このため, 長期に休むことも自分にどのような影響を与えるかを知る良い機会と思っていただいております. 毎日継続することも重要ですが, 時には休むことも重要です. 休むことで, また継続する力を蓄えることが出来ます. 精神病の方は, 最初, この継続する力を蓄える容量が少なく, また蓄えるまでの期間が通常よりも長いです. しかし, 計測で数値化してみると, 身につけた技術は維持されており, 徐々にではありますが, 継続できる期間が長くなってることが分かります. 現在の計測は, 主に革細工ですが, 今後は織物と木工でも計測できるようにしていきます.